一流は、「言葉力」と「翻訳力」で勝負する
気配りには一流と二流がある。二流の上司は組織での上下関係や肩書きに物を言わせ、人を動かす。一流は、気配りで部下の気持ちを快適にさせ、やる気を引き出す名人である。組織のパワーを一段とグレードアップするには、上司は、部下を観察し、考え抜いた言葉の巧みな使い方を磨く必要がある。
一流の人は相手を楽しませたり、快適にさせる名人である
ある日本企業トップがアメリカ企業との事業提携のために渡米した。無事調印も済み、明日はオフというところで、相手先からゴルフに誘われた。しかし、日本側のトップはゴルフをするつもりはなかったので、その用意はいっさいしていなかった。すると相手は「それでいいんだ。あなたは体一つで来てくれたらいい」と言う。
翌日ゴルフ場に出かけてみたところ、彼が日本で使っているのとまったく同じゴルフクラブと、体のサイズに合わせたゴルフウェアが一式そろっていたというのである。
よく考えてみると、そんなことはあらかじめ秘書に確認しておけばわかることで、調べるのにたいした手間はかからない。しかし、こういう気配りを見せることで、その取引先は彼にとって忘れられない人になる。
次の話は、最近、あるレストランで目にした光景だ。食事を楽しむ上品な老カップルの婦人の咳き込む姿を見たアルバイトのウェートレスがすかさず水を運んできた。老婦人は水を口にして咳はすぐに治まったが、私の目にとまったのは、ご丁寧にもポットから注ぐ氷水の氷を除くウェートレスの姿だった。
<氷が入っているときっと喉に通りにくいだろう>
瞬時に、そんな気働きをしたウェートレスは、顧客に好印象を与えたはずである。
冒頭に、二つのエピソードを披露したのは、気配りの仕方について、職場の上下関係に置き換えても同じことが言えるからだ。
気配りには一流の人と二流の人がいる。二流の上司は、部下を使うときに部長とか社長という肩書または権限に物言わせ、いわば“力”によって人を動かそうとする。しかし、部下だって人間である。そういう上司の命令を受けて、誠心誠意努力しようとするだろうか。
これに対して、一流の人は、顧客と従業員とか職場での上下関係といった立場を超えて、周りにいる人を楽しい気分にさせたり、相手の気持ちを快適にさせる名人である。
マーケティングでは、CRM(Customer Relationship Management)が大切だ。すなわち顧客の立場に立って考え行動することがビジネスで成功するカギであり、普遍的な原則である。CS(顧客満足度)を高めるには、組織内のES(社員の満足度)を向上させる必要がある。ESは、企業理念、事業領域の設定、ミッションステートメント、トップのリーダーシップなどにより高まるが、それを成功させるには部下に対する上司の気配りが欠かせない。
気配りは部下を束ねるうえで必要なことだが、日本企業のミドルにはそれが不足していると私は思う。とりわけ問題なのは、トップの打ち出した大方針を部下に対して具体的な言葉で伝える“言葉力”や“翻訳力”がないということだ。会社が決めた「売り上げを伸ばせ」「構造改革の断行」という大方針の文言をそのまま部下に伝えても感動はなく、何も印象に残らない。日本のミドルはあまりに語彙が少なく、表現力に乏しい。
“翻訳力”とは、たとえば会社の方針について、相手に応じて表現を変え、納得させ、やる気にさせる技術である。個性や条件が違う部下に同じ言葉で語るのは効果が薄い。目的は「売り上げアップ」でも、それをストレートに伝えるしかすべがないのか、それが部下のキャリアアップにどうつながるのかを説明し、希望や夢につながる目標を与えるかで、言葉を受け止める部下の反応はまったく違うものになる。つまり、巧みに“言葉力”を駆使する上司が一流と言えるだろう。
こうした気配りによって相手の気持ちをつかむことができれば、結果として、組織のパワーはグレードアップする。そして一流の管理職とは、肩書や権限に頼るのではなく、部下がその上司のために「何かしてあげなければ」と思ってくれる人をいうのである。
一流の人は、どのようにして相手の気持ちをつかんでいるのだろうか。彼らが人の気持ちをつかむプロセスを別掲の図に示してみた。
相手をよく観察し、長所や能力に気づくこと
まず大事なのは、相手をよく観察して、その人の持っている長所や能力に気づくことだ。次にその長所を直接・間接に評価し、誉めるときは誉める。
冒頭の事例で、ウェートレスの気配りを店のマネジャーの前で誉めたところ、その女性は「こんなに誉められたことはありませんでした」と思わず涙した。人に認められ、誉められると誰でも嬉しく思うものだ。仕事に対する情熱もやる気も張り合いが生まれる。些細な行動や言葉で、人は動き、動かされる。
感動や満足を家族に与える仕掛けをする企業もある。ハイエンドホテルとして知られるザ・リッツ・カールトン・ホテルでは、最も優秀な社員を表彰し、世界の同ホテルに家族を連れて旅行する機会を与えられる。これは社員だけでなく、家族のESを高める結果になる。流動性が高い業界にありながら、同ホテル(大阪の場合)の離職率は1割に満たないというのも、ESの高い企業である証明であろう。
話を図のチャートに戻すと、次のプロセスでは、自分がどういう人間なのか。何をしてほしいのかを部下に気づかせ、最後には、今後も自分と関わりを持ちたいという意識を持たせるのである。
一流の人はこのようなプロセスを踏み、相手の気持ちをつかむことで、自分という人間の「ブランド化」を行っているのである。別の言い方をすれば、周囲を常に魅了する人は、その人個人のブランド力が非常に強いということなのだ。
では、どうすれば「気づく人」になれるのだろうか。
最も効果的なのは、いい人のまねをするということだ。会社にはモデルになりうる人がなかなかいないという声もある。だが、身近なレベルでもよく探してみると、意外と「この人、いいな」と思える人が見つかるものだ。私はそういう人を見つけて、その人をモデルとして、どのように行動するのか徹底して観察し研究し、まねをすることを勧めたい。
最後にIQとEQ(心の知能指数)について述べておきたい。組織の中で、相手がIQの高い人なのかEQに優れた人なのかを見分けることで、気持ちをつかむやり方が変わってくる。IQの高い人に対しては自分のEQを駆使して訴え、反対にEQ型の人には論理的なアプローチをする。これは社内外を問わず等しく通用するやり方である。
気配りの力は個人の資質の違いも大きいが、誰でもそれを意識し、磨けば光るものなのだ。