「日経情報ストラテジー」2005年4月号
顧客満足度向上のための新時代CRM/SFA活用法
顧客主義経営と顧客満足度の最大化
ブレインゲイト(株) 代表取締役 酒井 光雄


  顧客主義経営による顧客満足度の最大化とは、営業活動が円滑に行えるという戦術的メリットだけではなく、企業の知的資産を生み出し、企業のブランド力を飛躍させる強力な戦略といえる。そこで必要になるのがCRMであり、SFAの仕組みだ。

(1)顧客満足度の最大化によって、企業が手にする7つの果実

  企業が顧客の満足度を向上させることは、単に企業と顧客との関係を強化し良好にするだけではない。顧客の満足度を最大化させると、企業には次のような7つの果実がもたらされる。
 
  それは

   ●既存顧客の評判が噂として世の中に伝わり、新規顧客が自ら問い合わせをして、
     商品やサービスを購入してくれる人が増える。
   ●企業に対する評価がクチコミによって高まり、社会に信頼されることで、
     営業活動が極めて容易に行えるようになってくる。
   ●企業の商品、サービス、社員の対応、企業の姿勢や風土などがマスメディアの
    番組や記事で紹介される機会が増える。またインターネットで検索すると自社の
    ホームページ以外にも数多くのサイトやブログで紹介されるようになってくる。
   ●そのため大規模な広告を行わなくても、パブリシティによって自社の情報や話題が
     絶えず提供され、これにより営業活動や事業活動が一層スムーズに運ぶようになる。
   ●企業のブランド力が高まり、企業価値が向上する。
   ●企業ブランド力の向上により、企業の付加価値が高まり、収益率と利益率が上向く。
     またこれに連動して株価も高くなっていく。
   ●企業ブランド力が高まることで、有能な人材が集まり、さらに魅力的な企業に進化していく。

  この7つの効果を見ると、顧客満足度の最大化とは、企業の知的資産を生み出し、企業のブランド力を向上させる有力な方法であることがわかる。逆の見方をすると企業ブランド力の高い企業とは、顧客の満足度を高めるために、地道な活動を日々積み重ねていることが明らかになる。

(2)売り手発想が招く「顧客に対する3つの誤解」

  人は自分が顧客になり、モノを購入しサービスを利用することが必ずある。本来なら誰でも顧客心理は理解しているはずだ。
  ところが立場が売り手に変わると、自社の都合や自分のノルマ達成だけを念頭に置いてしまい、顧客の心理は忘れ去られてしまう。顧客の立場に立てばどうすべきなのか容易にわかるはずなのに、あえて顧客が逃げていく方法で顧客に相対してしまうことが多い。

  顧客の立場と心理に立ち返ってみると、我々は顧客を誤解し、誤った方法で顧客に接していることに気付く。売り手の発想に縛られ、顧客を誤解している典型例を3つ抽出してみる。

<誤解その1> 顧客はこちらの話や説明を聞いてくれない

  商品やサービスを購入してもらうには、商品やサービスの説明が顧客にとって価値のある情報として認識されることが何より大切だ。顧客にとってメリットがある内容であれば、顧客はその情報を積極的に入手しようとする。
  顧客が積極的に情報を入手してくれない、あるいはこちらの話を聞いてくれないとすれば、商品やサービスの説明なり情報が顧客にとって価値のない情報だと思われていると考えるべきだ。

<誤解その2> 顧客は心を閉じている

  どんな商品やサービスであるのかもわからないのに、ただ闇雲に売りつけようとする企業や営業担当者に顧客は拒絶反応を示す。顧客は押し売りされることを何よりも嫌う。しかし買わなくても良いことがわかると、顧客は質問したり、ゆっくり商品を試したりして、価値を確かめてくれる。

<誤解その3> 顧客は積極的に関わってくれない

  顧客は商品やサービスに価値があると判断すれば、積極的に情報を入手しようと行動を起こしてくれる。それを阻んでいるのは、顧客の都合を無視した電話セールス、了解を取り付けずに勝手に送りつけられるDMやメールの存在だ。

  こうしてみると、顧客心理とはとても理にかなったものだ。セールス活動が上手く進まない理由は、価値の伝達をせずに闇雲にモノを売りつけようとする姿勢に問題があるわけだ。

(3)客主義を理解する最も平易な考え方

  企業に働く人達が顧客の心理を理解し、顧客の視点に立って行動する最も容易な方法は、ビジネスをする相手を自分にとって最愛の人だと考えることだ。顧客の心理が見えなくなったら、目の前にいる顧客を自分の恋人や妻、あるいは子供と思えばよい。また顧客が年配の人やお年寄りなら、自分の両親や祖父母だと思って考え、行動すればよい。
  商品を開発する時も、販売する時も、ビジネスの相手とは自分にとって最愛の人なのだと思えば、判断基準や行動基準を誤ることはないはずだ。
 
(4)顧客満足度最大化には、まず社員満足(ES)を高めることから始める

  顧客満足を最大化するには、社員の満足度を高めることが先決だ。企業が顧客主義を理解し、顧客を最愛の人だと考えて行動すれば、社員は自ずと自分の仕事に自信と誇りを持つようになる。また顧客のために何をすべきかを社員自らが考えて行動していると、心ある顧客が必ずそこに気付き、顧客から褒められる機会が増える。顧客から褒められ、評価される社員が増えれば、その企業の風土は間違いなく顧客主義を理解した体制になる。
  マニュアル通りに対応すれば顧客が納得する時代は終わり、企業は如何に顧客に感動を提供するかというステージに入った。CS経営を標榜するには、先ず社員の満足度を高め続ける仕組みを生み出すことだ。
  例えば最適な人材を採用する人材評価モデル作り、優秀な社員を社内で評価する表彰制度や国内外の視察制度、そして研修制度といった施策である。

(5)顧客の満足は、CRMによって最大化する

  かつて顧客満足とは、不満の解消をすればよいとする考え方に支配されていた。だが顧客の不満をいくら解消しても、必ずしも満足度が高まるとは言えず、この考え方は最近では見直されている。顧客が感じるマイナス面をいくら解消しても、ゼロになるだけで、プラスになる要素がないからである。
  それに代わって登場したのが、顧客の期待するレベルに対して、期待以上・期待通り・期待以下という評価基準の導入だ。この方法だと、プラス面は期待以上のスコアで測ることができ、マイナス面のスコアは期待以下で測定できる。CSレベルの高い企業であれば、期待通りという部分から如何にプラスに評価されるかを重視している。プラス面を重視した、積極的な評価視点といえる。
 
  また従来のCRMは見込み客や新規顧客からスタートし、その後如何にリピーターとして継続的に購入や利用をしてもらうかという手順で進めることが多かった。しかしこの方法だと最も大切にすべき顧客に対して企業は何をするのか、またどのように顧客の利用頻度や購入頻度、あるいは購入金額によって特別な待遇を用意するかが定まらない。そして上得意顧客がどのようなプロセスを経て生まれるのかという分析もできないことが問題となった。そこで我々は以前より上得意顧客の分析によって、リピーターが上得意顧客になるプロセス分析を、またリピーターの分析によって新規顧客がリピーターになるプロセス分析を進めてきた。
  企業にとって最高のお客様とはどういう方であり、そうした顧客に対して企業としてどのようにお付き合いを続けていくのか。それを明確にすることからCRMの精度が高まり、顧客とのより良い関係が実現すると考えているからだ。

(6)CRMはSFAが支える

  CRMをプロセスで分析してみると、顧客が情報を入手してから購入に至る各プロセスで(図)、効果的に意思決定をしてもらうためのバックサポートをいかに行うかが重要であることがわかる。
  以前はマス広告を投入して知名度と認知度を高め、DMに代表される販促物を活用して見込み客を開拓し、商談を経て成約に繋げる流れだった。しかし今日では顧客が関心を持つのは広告に限らず、また情報に対して受身ではなく能動的に入手することも可能になった。インターネットで検索すれば競合各社も含めて同時に比較検討ができるし、セミナーに参加し、あるいは書籍を購入すれば専門家の意見も参考にできる。
  またビジネスプロセスをすべて人間がサポートする対応から、ITの強みを活かせる領域では顧客が求める情報をITでも提供し、ストレスを感じさせずに購入してもらう仕組みが作れるようになった。その代表例がアマゾンやデルだろう。
  従来マンパワーに依存し連絡漏れや手違いが発生する領域をIT化すると、確実な対応や状況報告が可能になり、アマゾンやデルが確立したように企業への信頼度が増す。こうした面はITが本領を発揮する。
  だが自動車のように価格が高く商品の説明を必要とする商品ジャンルや、B2Bで法人単位で個別に提案したり対応したりする必要のある事業では、今後もマンパワーは欠かせない。
  情報の入手から購入に至る各プロセスで、マンパワーを効果的に発揮するのはどこなのか。また購入後に顧客満足度をどれだけ向上させ、効果的なフォローアップを行うかは、担当者個人に任せるよりは仕組みとして運用できるSFAが有効になってくる。
  CRMに関しては、これまでの人的サービスや接客に加えて、ITを活用して顧客の満足度を如何に向上できるか。またSFAを活用して顧客の満足度を向上させながら、どれだけ成約率を高めていけるか。これこそ今後企業が検討すべき最も重要な2大テーマといえるだろう。