日経ビジネスエクスプレス 2005.7.6
既婚者もモテたいと思うと、新市場が生まれる
ブレインゲイト(株) 代表取締役  酒井 光雄


  異性にモテることは、人間にとって永遠の願望だ。
 
  かつてモテることは未婚者の特権とも言えた。ところが、今や既婚の男女にもモテたい願望が拡大している。結婚し、子供が生まれると、オトーサンとオカーサンというセクシーさとは懸け離れた身も蓋もない存在になってしまった従来の大人世代。現在のモテたい願望は、その頃とは大きく異なる社会の潮流がある。
 
  女性が社会に進出し、仕事を持つことは当たり前になった。だが実際、社会に出てみると、女性も男性と同様に仕事で能力を発揮してキャリアの道を歩ける人は限られる。それに仕事を始めてみると、やはりいろいろ大変だ。
 
  キャリアを重ねるにつれ、将来に向けて漠然とした不安を抱え、20代のコムスメには負けない大人の女を目指して自分を磨く。こうした女性心理は消費にも影響を与える。かつては仕事ができる女性に不可欠だったキャリアファッション(バリキャリ服)の売れ行きが陰り、流行の先端を行くギャル系の洋服もダウントレンドらしく、代わって保守的な男性の好みを反映したコンサバファッションに代表される、いわゆるモテ服に人気が集まっている。
 
●モテおやじ向け雑誌の隆盛の意味
 
  一方、男性はといえば、こちらも地殻変動を起こしている。
 
  デートへの事細かな「お節介」企画が人気を呼び、男がモテるためのハウツー雑誌だった「ホットドッグプレス」が、リニューアルも功を奏せず休刊したのに対して、30〜40代男性を狙った「BRIO」や「LEON」が読まれ、「UOMO」といった新雑誌が登場している。「ホットドッグプレス」で育った世代が、大人の切り口に仕立てられたこうした雑誌から、モテにつながる(らしい)、ファッションや快適生活のノウハウを習得している。
 
  雑誌メディアからハウツーを学ぶスタイルは、昔からあまり変わっていないようにも見える。だが30代男性の未婚率は女性よりも高く、パートナーを探す未婚男性には、生活ノウハウの入手は必須であり、モテるためには避けて通れない重要な問題だ。しかし、こうした雑誌は既婚男性にも結構愛読者がいる。妻子ある男性だって、モテたい願望は強いのだ。この傾向は女性も同様で、既婚女性向け雑誌でもモテ服の特集は人気があり、既婚女性にもモテたい願望は膨らんでいる。
 
●モテ願望が生む新市場
 
  いつまでも女性であること、男性であることを降りず、大人が輝いて魅力的に生活する欲求が高まるのは素晴らしいことだ。ヨーロッパのように成熟した大人の国に、日本が向かい始めているとしたら、これまたうれしい。F・サガンの小説ではないが、いくら10代や20代のコムスメやワカゾウが力んでも、成熟した大人の魅力には負けてしまうことが理解される風土になれば、大人になるのが楽しみになる。
 
  日本という国には若者が憧れる大人の男女があまりに少なく、カッコイイ大人のお手本を探すのは至難の業だった。だがこれからは変わるに違いない。加齢しながらも、大人としての輝きを増そうと考える大人が増えると、マーケティングにも大きな変化が起きるからだ。例えば40代から50代を対象にしたオシャレなスーツやカジュアルウエア、2シーターのスポーツカーやクーペなど、新しい市場が芽生えつつある。
 
  とはいえ既婚者が本当にモテたいと思うと、自分の洋服代からデートでの食事代をはじめとした「必要経費」が非常にかかる。実際にモテる状況になるには、それなりに覚悟した方がいい。
 
  されど人の心をこれ以上ないほどトキメかせてくれるのは恋愛くらいしかないことに、成熟した社会は人々に気づかせてしまった。今を生きている実感が欲しくて、既婚者もモテるヒトを目指して旅立ち始めたようだ。