「ワインはグラスで味が変わる」
ブレインゲイト(株) 代表取締役  酒井 光雄


 ワインは不思議な飲み物である。とりわけ赤ワインは栓を空け、空気になじませる事でその表情を大きく変える。それ故、気が利く店では飲む前に、開栓してから少し時間を置いてサーブしてくれるのはこの効果を考えての事である。
 レストランでワインをオーダーすると(ハウスワインでは望めないのだが)、選んだ銘柄によってテーブルにセッティングされていたグラスではなく、別のグラスが用意されるケースがある。ワインは色、香り、そして味わいの3つを楽しむものだが、ワインの個性を引き出す重要な役割をワイングラスが担っている事は意外に知られていない。
 グラスの丸みを帯び、ふくらんでいる部分をボウルと呼ぶ。ここはワインが注がれた際、空気に触れる接点となる部分である。このボウルのふくらみが大きくなる程、ワインの表現力も増し、香りと味わいを開花させる力を持つ。つまりグラスが球状に近くなると、かなり上質でしっかりとしたボディを持つワインに向いている訳だ。ちなみにロマネ・コンティ(飲んだことがないので味はわからないが)の為に作られたワインのグラスなどは、このタイプである。
  次にボウルから飲み口に至る筒の部分は、ワインを空気に馴染ませブーケを表現する役割を果たす。ボウルから飲み口となる縁までが長くなると、アルコールを飛ばしワインの持つ果実感を引き出す効果を持つ。果実感を楽しみたいワイン(例えばカリフォルニアワイン)なら、このタイプのグラスを選ぶと良い。更にこの筒の形状がタンニンをまろやかにする力も持つ。
  三番目は飲み口の縁が内側へカーブし、飲み口がボウルより狭くなっているものは、ワインの香りを逃がさず包み込む為、香りを楽しみたいワインに最適だ。 ブランデーグラスを想起して戴ければイメージし易いはずだ。飲み口が狭く、ボウルが大きいものになれば、やはり上質のワインに向いてくる。
  さて、一般的に家庭で常飲するタイプのワインなら、小ぶりでボウルに丸みを帯びたグラスを選べば良い。これなら香りを楽しめ、しかも取り扱いも容易なので便利だろう。
 ワインブームも手伝って、最近一部のレストランでは赤ワインの価格が上がっている。これは銘柄によって品薄になっているせいもあるが、お店でワインを最適な状態で保管する手間賃が加味されているからである。年代物となれば、ほとんどがこれまで保管した手間代だと考えた方が良い。
 おいしいワインを手軽な価格で楽しみたいと思ったら、信頼できるワインショップや酒屋さんを見つけよう。そしてまずはポピュラーなタイプから試し、自分の好みがわかってきたらその銘柄を手掛かりにお店の人に相談して新しいものにチャレンジすると良い。ちなみに作家の開高健は、テーブルワインを常飲し、時折良いワインを飲んでその違いを身体に記憶させたという。確かにこの方法だとワインの違いが素人にも明確に理解できる良い方法だ。そしてワインの良さを最大限に引き出す為に、種類の異なるワイングラスを用意しておき、タイプによって使い分ける。時には同じワインを異なる種類のグラスで試し、その変化を楽しむのも面白い。どのタイプのワインは、どんな形のワイングラスと相性が良く、色・香りそして味わいを最大限に引き出すグラスはどれなのかを「つまみ」にテイスティングするのは、新たなワインの楽しみ方につながるかも知れない。