マーケティング ホライズン 2009年3月号
リセッションの大嵐を払うマーケティング力とは何か
ブレインゲイト(株) 代表取締役 酒井 光雄


 連日報道される企業業績の下方修正や赤字決算、人員削減などのニュースに接すれば、いかに楽天的な経営者やビジネスパーソンでも不安がよぎる。まして教育費と住宅ローンを抱える主婦や年金が消えたお年寄りともなれば、将来の不安に対して防衛本能が働き、明日への備えのために消費を控えるのは当然だ。

 希望ではなく危機感しかあおれず、将来の成長市場を見定めて税金を投入する国家戦略が描けない国と政治家を批判していても、解は生まれない。他者の考えを批判する評論家的姿勢ではなく、解を導き出して人を奮い立たせるリーダーになることがいまこそ必要だ。

 マーケティングに携わる私たちビジネスマンが留意すべきは、人は不安心理や恐怖を感じると、思考を停止させ、事態を悪化させてしまう場合があることだ。嵐が襲ってきた時には、何もせずじっとしていれば、そのうち嵐は通りすぎるとする態度では、今回のような構造的な問題をはらむリセッションでは通用しない。また経費削減や不採算部門の清算といった後ろ向きの施策だけでなく、未来に向けて新たな収益源となる商品や事業につながる種をまき、働く社員たちに希望を与え求心力を発揮する施策の立案と実行が求められている。


 人も世もうつむき加減の時代に、知恵を働かせ、磐石な基盤をつくりあげた日本企業は数多くある。
 例えば東レだ。かつての繊維不況をはじめ数多くの試練に直面し、国内の繊維産業が輸出競争力を失う中で、東レは「繊維」「プラスチック・ケミカル」を基盤事業と位置づけ安定収益基盤の強化を図り、その一方「情報通信材料・機器」「炭素繊維複合材料」を戦略的拡大事業として経営資源を重点的に投下し、成長を加速させている。また戦略的育成事業として「ライフサイエンス」「水処理・環境」事業を育てている。その成果として、軽量化と強度を併せ持ちCO2の削減につながる炭素繊維複合材料は、ボーイング787の機体構造の実に5割まで起用された。また地球規模で人口が増大し、新興国の経済成長に伴う水不足に対応するため、海水を飲料水に変え、廃水を工業用水や農業用水に再利用できる逆浸透膜などの高機能分離膜は、日量1,400万トン、世界で6,000万の人々に生活用水を提供している。

 同様にバブル崩壊後の厳しい経済環境の中で、いち早く環境問題に取り組み、ハイブリッドカー「プリウス」を市場に投入し、環境に配慮する企業としての評価を国内外で獲得し、市場シェアも伸ばしたのがトヨタ自動車だ。

 海外に目を転じてみると、世界恐慌が吹き荒れた1930年にアメリカの自動車業界は、「定期的な点検でクルマを長持ちさせよう!」というスローガンの下、「点検と修理のサービス」という新たな収入源を育て、現在存亡の危機に直面しているGMは、1975年に「部品とサービス」を切り口にして需要拡大に取り組むという知恵を生み出している。国に救済を求めている現在のビッグ3の姿とは、対照的だ。

 その他アメリカの航空業界にアゲインストの風が吹いていた1981年に、アメリカン航空は業界で初めてとなる「Aアドバンテージ」プログラム、それに続くユナイテッド航空の「マイレージプラス」プログラムにより、フリークエントフライヤーを獲得するCRM手法を生み出し、現在では全世界の航空会社が導入する仕組みとして定着している。

 過去に幾度もの困難を乗り越えてきた先人の知恵と教訓から学び、私たちは今こそ未来に向けた施策を打つ時だ。サミュエル・パルミサーノIBM会長は、危機後の企業環境を予言して、「勝者は嵐を生き延びた者でなく、ゲームのルールを変えた者だ」と述べている。まさに「新たなマーケティング発想によって、これまでにない知恵を生み出す時代の到来」だ。