美容と経営 2006.6月号

動き始めた男性マーケットを分析

ブレインゲイト(株) 代表取締役  酒井 光雄


 男性向けの商品、特に高額商品が好調です。景気の最後に良くなるのが男性マーケットだと言われていますが、今回は少し異なるよう。男性の消費意欲が向上している背景には何があるのでしょうか。

 男性向け商品が好調

 
従来のマーケティングでは、男性市場は景気が悪くなると真っ先に落ち込み、景気が回復して最後に伸びる、とされていました。なぜなら、男性市場とは家庭を支える大黒柱のお父さんがメインだったからです。景気が悪くなると、お父さんの被服費や小遣いから削られ、世の中の景気が良くなると子供や奥さんに必要なものが揃った後で、やっとお父さんの経費を見直してもらえる、というのが一般的だったのです。
 最近、メンズ市場が注目を浴びています。伊勢丹のメンズ館の成功はご存知の通り。資生堂のスタイリング剤『UNO』は3枚目のお笑いタレントを2枚目に演出したことで売り上げを伸ばし、
『SHISEIDO MEN』はスキンケア商品で前年比20%という伸びを見せています。大手エステサロンはメンズ専用サロンをオープンし、こちらも好評。松下電工では家庭用メンズエステ機器を発売しました。世界中のセレブを広告に起用して評判の「サマンサタバサ」はメンズライン「サマンサキングス」の展開を開始しました。今なぜ、メンズ市場なのでしょうか?その背景を探っていきます。

 増える男性のシングル化

 
まず、男性の消費意欲が向上している背景の1つとして、30代未婚男性が増えていることが挙げられます(表参照)。2000年のデータで見てみますと、25〜29歳の男性未婚率は69.3%、30〜34歳では42.9%。20〜30代の男性は2人に1人が独身なのです。女性の統計を見てみますと、25〜29歳は54.0%、30〜34歳では26.6%。シングル女性は早くから話題となっていましたが、実際は女性よりも男性のほうが独身比率が高いのです。男性もシングルライフを楽しむ傾向が広がっていると言えるのです。
 それに加え、学歴別、産業別で所得格差が広がっています。2004年のデータによると、30〜34歳の金融・保険業が月収平均38万円なのに対し、同年代の飲食店・宿泊業は24万円と1.5倍の格差です。学歴の差は、年齢が上がるほどに“格差”として開いていきます。
 この他、共働きの家庭が増加傾向にあり、世帯所得が高くなっています。男性のライフスタイルは、結婚して家族を支えるお父さんという役割だけではなくなり、自分自身に投資ができる経済的にゆとりのある男性=可処分所得の高い層が新たに出現しているのです。今回、注目されている男性市場は、男性の中に広がっている所得格差の中の、特に可処分所得の高い層をターゲットにした市場のみが動き出していると言えるのです。

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 ビジネスの評価と個性の表現

 
男性の身だしなみは、女性に比べるとビジネスでの環境に大きく左右されます。ビジネスエリートを取り巻く状況は以前と比べてどのように変化しているのでしょうか。
 かつての日本は製造業を中心とした大量生産型の経済が発展しました。消費者は同じタイプの商品でも手にできることで満足を得ることができたのです。しかし、顧客のニーズは多様化し、嗜好に合わせた商品づくりが重要となってきました。大規模な生産ラインを確保するだけでなく、顧客の気持ちを動かす商品開発を行なうために、豊かな発想のできる人材をどう育てていくか。それが企業にとって大切な要素となったのです。
 また、ここ10年の間に、サービス産業やIT関連企業など、柔軟な社風を大事にする企業が増えてきました。金曜日だけはスーツを脱ごう、という「カジュアルフライデー」もこうした柔らかな企業風土をつくるために取り入れられています。
 こうした社会の動きを受けて、若手社員の中から、ビジネスシーンで評価を受けながら個性も出していきたい、という価値観が生まれてきました。ビジネスシーンでの着こなしの制約は、現在でも業界ごとに存在しています。しかし、スーツを制服のように着るのではなく、色や形、素材など、より自分らしさを表現するためにこだわる傾向になったのです。
 オフィスに総合職の女性が進出したことも、男性の身だしなみの意識を変化させたと考えられます。男性は社内だけでなく、取引先でも異性の“見た目”を気にしなくてはいけなくなったのです。仕事さえできれば評価されるという価値観から、仕事も見た目も大事という考えが広がっているのは、こうしたことが背景にあると思います。

 ファッションの高度化、ボーダレス化

 
ファッションレベルは女性だけでなく、男性市場も高度化しています。例えば高級ブランドの腕時計が好調です。時間を確認するだけなら携帯電話がありますし、腕時計はもはや必需品ではありません。しかし、高級ブランドに人気が集まっている。木型からつくる高級メンズシューズ、オーダー、セミオーダーのスーツやシャツも人気を集めています。
 また、15年ほど前までは、世界中のアッパーホテルでは顧客がスーツを着て施設を利用することを求めていました。しかし、世界の富豪たちのファッションがこぞってカジュアル化し、高級ホテルでもカジュアルファッションを認めるようになりました。もちろん、ハイエンドのカジュアルはチープシックではありません。贅沢でこだわりがあります。彼らをお手本にファッションの高級なカジュアル化は進んでおり、世界的な広がりを見せています。
 海外のメゾンを始め、ファッションがユニセックス化していることも最近の特徴です。男性用ジュエリーが好調ですし、女性が着てもおかしくないくらい、つくりが華奢で柔らかなメンズラインが発表されています。ファッションデザイナー、カール・ラガーフェルドが47kgのダイエットに成功したのも、その動機は新進の若手デザイナーが手がける細身の服を身に付けるためだったのは有名な話です。
 男性のファッション市場が充実し始めたのに伴い、男性ファッション雑誌の創刊が相次いでいます。ページをめくると、ファッションだけでなく、美容やグルメなど、様々な情報が紹介されているのです。その理由の1つに、既婚者でもモテたい願望が拡大していると言えます。
 雑誌『LEON』はそんな男性の願望をストレートに表現して話題となっています。願望はあっても、実際に女性にモテるのはごく一部でしょう。いずれにしても、結婚しても生活感を漂わせずに、ちょっと趣味の良い着こなしで、流行の店や情報を知っておきたい。女性たちの評価が上がるからです。要は、異性の部下や同僚たちからスマートだと思われたいのです。

 気に入れば長く支持する

 
おしゃれをするのは男の恥、と言われたのは過去の話。スーツを着ている人はクリエイティブじゃない、というイメージがサロン側にあるとすればそれは間違いです。スーツを着ていても男性は女性と同じように外見に気を使う時代となったのです。それも、ビジネスパーソンとしての自分の立場を理解し、その上で自分のこだわりを理解してくれる、そんなパートナーと呼べる美容師が求められているのです。
 美容室が男性を顧客とするメリットとして、男性、特に35歳を過ぎると、一度気に入れば生涯に亘り通い続ける、ということが挙げられます。男性向けの商品には、ロングセラーがたくさんあります。それらは、広告をしなくても売れるのです。女性向け商品では考えられない現象です。
 男性の滞在時間は女性より短いのも利点の1つ。男性の多くは保守的なので、誰かに「いいよ」、と勧められると安心できる傾向があり、そういう面で紹介を重視しやすいでしょう。
 また、異性がサロンにいることで、マナーの悪い女性顧客の行動をけん制することができます。女性顧客の中には結婚して子供を持つと、経済的、時間的な問題から頻繁にサロンに通えなくなる人が出てきます。その落ち込みを、男性顧客でカバーすることもできるのです。

 「自立している男」がターゲット

 今後、美容室が顧客として取り込みたい男性は、独身か既婚かは関係なく、自立している男。恋人や奥さんに頼らず、自分で洋服を選んだり、自ら買いに行く人です。伊勢丹やバーニーズでスーツを揃えることができる人はごく一部でしょうが、それらを参考にしている人は一顧客としてアプローチが可能でしょう。
 具体的な男性客への対応のポイントがいくつかあります。
 男性がおしゃれに気をつけている、と言ってもモードを全面的に受け入れているわけではありません。ファッション業界やクリエーター系は別として、ビジネスシーンでは信用が第一。軽く見られるような外見は好まれません。おしゃれが前面に出てしまうことを男性が好まないのは、浮ついて見える、表面的で中身がないと評価されてしまうことを警戒しているからです。
 男性客の心理的背景を理解するためには、お客様にスーツを着用していただくといいと思います。しかし、休日に来店する方も多いでしょうから、サービスの一環としてサロン側でジャケットを用意しておくのは一案ではないでしょうか。
 ジャケットの形によってだいたいの職業がわかるくらい、スーツにもいろいろなデザインがあります。ここではお客様の背景を理解するためですから、その範囲であれば、たくさんのデザインを揃えなくても、また、少々サイズが合わなくても構わないと思います。
 男性客は、生活感を匂わせず、若々しいヘアスタイルの演出をして欲しいとサロン側に望んでいます。男性の多くは「おしゃれ」ではなく「センスがいい」と言われたいのが本音です。全体が醸し出す雰囲気として「あの人すてきよね」と評価されたい。印象をガラリと変えてしまうことには抵抗がありますが、今の印象をワンランク洗練させることができたらうれしいのです。

 男性にこそフェイシャルケア

 
男性客が多くなることが既存の女性顧客のクレームになるようでしたら、予約のときにコントロールすればいいでしょうし、スペースに余裕があるのでしたら、パテーションで仕切りをつければ安心できるのではないでしょうか。カーテンで個室化することもできますし、半透明なら店内を圧迫することもありません。
 男性客は単価が低い、という懸念があるのでしたら、ヘアカラーやパーマより、スカルプケア、フェイシャルを導入することをお勧めします。
 女性顧客はシビアに判断しますから、専門スタッフが居ない限り、美容室でエステメニューは展開が難しい。ヘアのプロがスキンケアのプロになりえるのか、女性は敏感に計算するからです。 一方、男性は人に施術をしてもらう経験が少ないうえ、特に頭皮に関しては悩みが多い。エステまでは行きたくないけど美容室ならお願いしやすい、と思っているのではないでしょうか。髪を切りながらリラックスできるのであれば、気に入ってもらいやすいと思います。

 共感できる実在モデルが市場をブレイクさせるカギ

 男性市場は今後、ますます活発化していくことが予想されます。男性ファッション雑誌が、男性読者の生活に密着し、より充実した生活ノウハウの提供へと進化していくからです。
 男性は虚像よりも実像が好きですから、生き方に共感できる、ライフスタイルがお手本になる、目標となる実在する人を求めたい。一方、女性ファッション誌には、同性の憧れと共感がブレンドされた「モデル」が雑誌ごとに存在し、彼女たちを中心に企画や商品が展開されています。しかし、男性誌では今のところ外国人の職業モデルばかりが登場しているのが現状。これではとってつけたようで、読者は実感がわきません。それぞれの雑誌の読者が共感し、目標となるような「実在する日本人男性」のモデルが登場するようになれば、市場は一気にブレイクするはずです。大人の男性に向けたヘアスタイルの情報も、そのあたりから充実していくのではないでしょうか。
  人口の半分は男性です。サロンにとっては、顧客の半分がまだ眠っているのと同じです。この大きな市場はプロのアドバイスを切実に必要としているのです。新しい発想で男性顧客のニーズを引き出し良い関係を築きあげてください。