愛知経協 2009年4月号
今日、経営者がどんな行動を起こすかで、明日の成長が決まる!
ブレインゲイト(株) 代表取締役 酒井 光雄


1.この時期に経営者が持ちたい発想、集めるべき情報、そして会うべき人

 毎日絶え間なく報道される日本企業の業績不振や人員削減などのニュースに触れていれば、いかに楽天的な経営者でも不安がよぎる。まして教育費や住宅ローンを抱える主婦、年金だけを頼りに生活するお年寄り、輸出依存度の高い企業や大企業の協力企業で働くビジネスパーソンといった生活者(消費を担う企業の顧客でもある人たち)には防衛本能が強く作用し、目先の消費を控えるのは当然の成り行きだ。

 企業のリーダーである経営者が最も恐れるべきは、「不安に支配された心理」や「見えざるものへの恐怖」そのものだ。不安は思考を停止させ、恐怖は事態を悪化させることがあるからだ。

 嵐が襲ってきた時には、何もせずじっとしていれば、そのうち嵐は通りすぎるとする循環型景気後退期のような態度では、構造的な問題をはらむリセッションでは通用しない。IBMのサミュエル・パルミサーノ会長は、今回のリセッション後を予測して「勝者は嵐を生き延びた者ではなく、ゲームのルールを変えた者だ」と述べている。まさに意を得たコメントだ。

 今、経営者に求められているのは、経費削減や不採算部門の清算といった後ろ向きの施策だけでなく、未来に向けて新たな収益源を生み出す商品や事業の開発という攻めの発想に基づくシナリオづくりとその推進だ。

 新たな発想から生まれた事業のシナリオは、経営者はもとより、企業に働く社員とその家族に夢と希望を与え、強力な社内求心力を発揮する。

 新たな発想を生み出す知恵は、前向きな姿勢と意欲があってこそ生まれる。経営者のモチベーションは、どのような情報を意図的に集めて分析し、自らの知恵に転用できるかで決まる。業績不振の言い訳になるニュースや不安を増幅させる番組ではなく、創業時に経営者が抱いていた「事業に対する熱い想い」を取り戻し、どこよりも素早く行動を起こせる情報が必要だ。

 過日経営者向けセミナーで拙著「価格の決定権を持つ経営」を読んでくれた経営者が、本当に嬉しい声を聞かせてくれた。「業績が低迷し、売上げが20億円にまで落ち込んだ時にこの書籍に出会い、書籍の内容を参考に戦略を練り直して経営に臨んだところ、現在では80億円を超える企業に成長した」とのことだった。経営者に必要なのは、未来に向けて現在なすべきことに気付ける情報だ。

 「調子はどうだい?」「いいわけないだろ〜」「やっぱりそうか。ウチの会社もそうなのだ・・」などと、互いにキズを舐めあう交友関係では、互いに何ら進歩や気付きはない。経営者が今、会うべき人とは、「こんな新たな試みを始めた」「こんな時こそ、有能な人材を獲得する絶好の機会だ」といった発言や行動を起こす“眩しい人たち”だ。こうした眩しい人たちと、積極的に出会い、交流を深めるべきだろう。


2.逆境でこそ、経営者の「新たな発想」から「新たな知恵」が生まれる

 人も世もうつむき加減の時代に、知恵を働かせ、磐石な基盤をつくりあげた日本企業は数多くある。

 バブル崩壊後の厳しい経済環境の中で、いち早く環境問題に取り組み、ハイブリッドカー「プリウス」を市場に投入し、環境に配慮する企業としての評価を国内外で獲得し、市場シェアも伸ばしたのがトヨタ自動車だ。
 あまりに厳しい基準でそれをクリアするのは困難だといわれたマスキー法がカリフォルニアで制定された時、CVCCエンジンを開発して一番に認められ、アメリカで本格的に四輪市場を開花させた本田技研工業もある。

 繊維不況をはじめ数多くの試練に直面しても、繊維の可能性を拡張しながら「プラスチック・ケミカル」事業、「情報通信材料・機器」「炭素繊維複合材料」事業、そして「ライフサイエンス」「水処理・環境」事業を育てたのが東レだ。
 軽量化と強度を併せ持ちCO2の削減につながる炭素繊維複合材料は、ボーイング787の機体構造の実に5割にまで起用されている。
 地球規模で人口が増大し、新興国の経済成長に伴う水不足に対応するため、海水を飲料水に変え、廃水を工業用水や農業用水に再利用できる逆浸透膜などの高機能分離膜は、日量1,400万トン、世界で6,000万の人々に生活用水を提供するという実績を誇っている。

 歴史を紐解いてみると、新たな知恵が生まれていたこともわかる。世界恐慌が吹き荒れた1930年にアメリカの自動車業界は、「定期的な点検でクルマを長持ちさせよう!」というスローガンの下、「点検と修理のサービス」という新たな収入源を育てている。また現在は存亡の危機にあるGMは、1975年に「部品とサービス」を切り口にして需要拡大に取り組むという独自の知恵を生み出した。過去に何度も事業戦略を見直す機会があったにもかかわらず、好調なSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークルの略で、アメリカでは燃費の悪い大型車が主流だった)に依存してしまい、打つべき手を先送りしたビッグ3の轍を踏んではいけない。

 過去に幾度もの困難を乗り越えてきた日本人や先人の知恵と教訓から学び、私たちは今こそ未来に向けた施策を打つ時だ。「新たなマーケティング発想によって、これまでにない知恵を生み出す時代」が到来したからだ。


3.経営者がこの時期にこそ実践したい“8つの取り組み”

 人が跳躍する際に低い姿勢を取るのは、自らのジャンプ力を高めるためだ。姿勢は低くとも、そこに蓄えられる力は大きい。世界をリードし日本経済を牽引してきた中部地方にある企業群が、今回の経済状況を前にしても、その力は失われるわけがない。

 人は夢や目指す目標をなくした時に、人ではなくなる。生きるためだけでなく、大きな夢と高い志を達成するために、どうか自信をもって経営の舵を切って欲しい。新たな船出の際には、是非とも次の8つの視点を念頭に入れて行動を起こして欲しい。

(1)下請けではなく、取引先のビジネスパートナーとして認められる提案力を磨く

 取引先から言われるままに商品や部品を製造しているだけでは、取引先はその企業をパートナーとは認めてくれない。何を作るのか。どのような仕様で、どんな製品を生み出すかを、取引先に教えられ指示されているからだ。
 強い企業、ビジネスパートナーとして存在感を発揮している企業とは、誰にどんな商品やサービスが必要とされ、どのように販売するかを全て自社で考え、その実現に向けて自ら行動を起こしている。

 自社の利益と都合だけを考える企業は、他社から見放され、下請けなどという不名誉な称号に甘んじる。

 取引先の商品やサービスの価値を高め、生活者から名指しで選ばれるには何が必要なのか。取引先の売上げや収益力、利便性などを高めるために、自社は何ができるのか。取引先のビジネスをより良くするために、自分たちにできることは何か。こうした視点で自社のビジネスに取り組み、技術開発や商品づくりを行えば、仕事を依頼したいと考える企業は世界中に山ほどある。

 愛知県にある中堅土木建設会社は、公共工事に依存してきたこれまでの受注型企業体質を改め、高齢者向け賃貸ケアマンションの建設・施工そしてケアに至るオペレーションを全て社内で行い、そのノウハウを生かして需要創造型企業へ転換することに成功している。


(2)自社の技術や商品を、他業界でも必要とされるカタチにする

 これまで得意としてきた業界で自社の技術や商品が評価されているなら、その企業が持つノウハウは、他業界でも必ず求められるはずだ。自動車業界では当たり前になっている技術が、食品業界や事務機器業界に導入できないか。自社が持つノウハウは、製造業だけでなく、サービス業でも活用できないか。この視点で自社の知的資源や技術を見直し、磨き上げることだ。そして従来の商取引や販売方法に固執せず、生活者や取引先企業にとって最善の方法を考え出し、行動を起こして欲しい。

 技術開発に熱心な日本の中小メーカーに欠けているのは、マーケティングへの取り組みだ。高品質な商品をつくる製造機能だけでなく、「誰に、どんな価格で、どのような方法により、どの販路を開拓し、市場を拡大していくか」という社内のマーケティング機能が益々必要になっている。

 東京大田区の硝子と鏡の加工を行う小さなメーカーは、大手デザイン施工会社経由でイタリアの高級宝飾品メーカーから、日本における直営店のショーケースを受注した。この出来栄えが本国のデザイナーから賞賛されるなど、優れた加工技術が海外からも認められた。過去に手がけたこうした実績が評価され、太陽光発電の海外大型プロジェクトで使用する鏡の受注に成功している。

 ビジネスに他力本願などあり得ない。自社の市場は自力で拡張させ、自社の売上げと利益は独力で高めなくてはならない。


(3) 取引先を特定の企業に依存しない

 
あるビジネススクールの教授が、最もリスクの高いビジネスパーソンとは誰かと質問した時、多くの学生たちは「ベンチャー企業の経営者だ」と答えた。しかしその教授は「最もリスクの高い人とはサラリーマン(給与所得者)だ。なぜなら彼らは1社からしか収入を得ていないから、万一その企業が立ち行かなくなった時、収入源を失う。だがベンチャー企業は1社としか取引していることは有り得ず、経営のリスクは分散されている」と述べた。この指摘は、企業経営にも当てはまる。

 特定の企業との取引が継続すると、相互に「あうん」の関係が生まれ、仕事は互いにはかどるようになる。しかしこの状況が永続するとは限らない。取引先の経営者や担当者が変われば、従来の取引慣行を見直し、あるいは提案力のある他社を起用するケースも出てくる。特定の取引先への自社依存度が高くなれば、経営の裁量を狭め、取引先の売上げや業績に連動してしまう問題が生じる。

 特定の企業の売上げが増えれば、取引額を落とさずに売上げ構成比を下げることが必要だ。それには別の取引先との関係を強化する一方で、他社に依存せず自力で売上げを上げる工夫が必要だ。ある飲料メーカーでは組織小売業からOEM(受託商品)の依頼が急増したため、社内での生産だけでなく外注化によって設備投資のリスクを下げ、逆に自社の商品開発力を高めてインターネットを活用した直販体制を強力に推進している。


(4)明日の収益につながる研究開発は継続する

 
アップル社はマイクロソフト陣営の圧倒的な力の前に先行きが見えない中、ITバブルが崩壊し、厳しい経営環境に追い込まれていた。だがアップルは次の時代を担う新製品開発に必要な研究開発費は削らず、事業の建て直しを図っていった。その後アップルが市場に投入したi−Podはこれまでの携帯型音楽プレーヤー市場を塗り替える大ヒットとなり、その後のi−Phoneの投入にも成功し復活を遂げている。

 需要が縮小すれば、固定費を削減することは必要だが、明日の売上げと飛躍につながる新製品開発などの研究開発は継続しなくてはならない。需要の縮小が大きければ大きいほど、その反動で需要が拡大する幅は大きく、飛躍することにつながる。


(5)徹底的に広報活動を行う

 
充分な広告費や販売促進費を計上できない中小企業が抱える大きな課題は、知名度や認知度が低く、誰もその企業と商品を知らないことだ。良いモノをつくれば売れる時代は終わり、企業間や商品間の優位性が明確でない時代が到来している。またインターネットであらゆる情報が入手できる時代でもある。ネット検索をして、自社の情報が少なければ、情報量の多い企業に顧客は自ずと流れていく。情報の質と量は、企業が評価される判断基準となるからだ。

 生産財を含む全ての業種で、広報活動を積極的に行う必要度が増している。マスメディアの記事や番組に、企業と商品、あるいは技術などが報道されれば、社会の注目度は高まり、インターネットでの情報量も増えていく。業績が良く、営業しなくても仕事の相談が舞い込む企業は、メディアに報道される機会が多く、ネットで検索すると膨大な情報が提供できている。

 企業がマスメディアのスペースを購入してアピールする広告と違い、記事や番組に自社が報道されると第三者が客観的に評価しているため、生活者の信頼度は極めて高くなる。中小企業ほど、社内に広報活動を専門に行う担当者や部門を設け、積極的に広報活動を行うことが必要だ。広報活動に成功すると、営業活動が必要でなくなるという夢のような企業にもなり得る。

 (2)で前述した東京大田区の硝子と鏡の加工を行うメーカーは、事業規模が小さいにもかかわらず、広報専任の担当者を社内に迎え入れ、積極的な広報活動に取り組み、その企業活動が新聞を始めとするマスメディアに紹介され始めている。


(6)社内の仕組みを見直し、再度基本を徹底し、顧客に必要な施策を打つ

 
外資系企業に対抗して、高品質なハンバーガーを高単価で販売する日系ファストフード企業の業績が傾き、ある企業に買収されて子会社になった。新しい株主の誕生でどんな取り組みを始めているかを知りたくて、利用してみた。商品は美味しく申し分ないのだが、飲食店として基本的な条件を満たしていないことを残念に思った。手で持って食べるにもかかわらず、店内には洗面所がなく、また紙オシボリなども用意されていなかったからだ。

 省エネや環境問題に取り組むことは企業に欠かせない対策だが、顧客に不便を掛けさせるコスト削減に、エコを利用するのは論外だ。企業の業績が低下する時には、顧客第一主義(生活者と取引先それぞれの立場を考えること)を忘れ、基本的な環境づくりや接客対応といったインフラがなおざりになっていることが多い。こうした問題は、業績が好調だった時に問題解決を怠り、あるいは問題を引き起こしていることが多い。

 社内で決められたルールは、忠実に守られているか。顧客視点で社内の運営が行われているか。当たり前のことができない企業に、顧客は生まれない。競合他社に価値があれば、躊躇せず乗り換えてしまうのが顧客の姿だ。

 顧客に約束している基本的な約束事は、忠実に守られているか。先ず足元を再度見つめ直して欲しい。


(7)この時期だからこそ、社員教育と製造ラインの効率化を徹底的に行う

 
多忙を極める時期には、社員の能力を高めようにも教育研修を行う時間が取れず、製造ラインがフル稼働していると、ラインの効率化を高めようとしても機械を止めるわけにはいかない状況にある。だが社内に余裕が生まれるこの時期に、社員に必要なマーケティング(商品開発から提案営業まで含む)を学ぶ機会を提供し、併せて製造ラインの効率化やメンテナンスを徹底的に行うことだ。

 明日に向けて必要な体力を強化することで、需要が回復した際の飛躍力と成長力に大きな違いが生まれる。


(8)経営者自らが顧客の視点で社会を見つめ、消費をし、顧客の気持ちをつかむ

 
リーダーたる経営者に必要なのは、顧客(生活者と取引先の両方)の視点で社会を見つめ、自ら社員と共に消費行動を実践してみることだ。自動車業界の仕事をしているのに、自動車ディーラーの店頭に足を運び、そこを訪れる生活者の声を聞いていない。食品メーカーでありながら、街で評判の飲食店を経営者や社員が定期的に訪れる風土になっていない。サービス業なのに、新しく生まれた外資系ホテルやレストランなどを利用したことがない。こうした状況で、生活者が支払う千円の価値や一万円の重みを、経営者が理解できるはずがない。

 何をすればよいかを机上で考える前に、経営者は顧客の潜在的欲求を知るための行動を起こすことだ。経営者自身が萎縮し消費に後ろ向きになっていては、何も得るものはない。社会に出て、自分の目と耳と足で、現場で今、何が起こっているのかを実感してみることだ。

 さらに自費で商品やサービスを手に入れてみれば、対価に見合う価値の重さに気付くはずだ。女性向けの商品やサービスを提供している企業経営者なら、妻や娘など女性を伴って、彼女たちの意見を聞きながら、自ら体験して経験値を増やすべきだ。そうすることで、自分たちには何が欠けていたのか。これからどんな取り組みを始めるべきか、その糸口が見出せるに違いない。


4.「世界一厳しい顧客を魅了する」実力を持つ日本企業

 
海外旅行に出掛けたことがある人なら、日本の素晴らしさを再認識しているはずだ。僅か数分遅れても丁重にお詫びのアナウンスが入る新幹線。ガソリンを給油すると、窓ガラスを拭き灰皿を綺麗にしてくれるガソリンスタンド。驚異的な燃費を誇り、環境に優しいハイブリッドカー。店内に通されると、笑顔と一緒にオシボリを提供し、清算ミスのないホテルやレストラン。機械化できない技術を誇りにする職人さん集団。日本では当たり前のこうした状況は、海外では絶対にあり得ないことだ。こんなハイレベルな日本で、日本の顧客に選ばれる企業や商品が、世界中の人たちを魅了しないわけがない。

 世界で最も厳しい顧客である日本人に選ばれる企業なら、世界中の人たちを顧客にする力を備えている。自信を失わず、しかし驕ることなく、経営者は持てる力を存分に発揮して、独自に価値あるビジネスを展開して欲しい。